岩 崎 元 郎 の



新日本百名山48山 再録


1.  礼文岳 2.  藻岩山 3.  天上山 4.  沼津アルプス
5.  雨飾山 6.  永田岳 7.  志賀山 8.  恵山
9.  奥穂高岳 10.  大菩薩嶺 11.  筑波山 12.  櫛形山



「新百48山再録」−3   
天上山
photos by M. Iwasaki

神津島に上陸、前方のスカイラインが、目指す天上山

登山口まで、マイクロバスで
送って頂く

   

黒島登山口から、ジグザグに
登って行く



頂上は広い台地になっていて、
砂漠なんかもある



2004年5月の天上山頂上


ジェットフォイルに乗り込む
行きはロマンチックに決めても、
帰りは速やかに帰りたい



 「好きな山はどこですか」という質問を受けることがある。返答に窮する。ナントカ山が好きです、なんて答えたら、カントカ山がひがむんじゃないか、などと余計な心配をしてしまう。

 それは冗談にしても、たとえば日本百名山、その一山一山にその山の魅力がある。好きな山をひとつ選ぶなんて無理な話だ。

 深田久弥さんは、好きな山はと問われたとき、最近登った山の名を挙げていらっしゃるという話を、どなたかのエッセーで読んだ。そのことを説明した上で、最近登った山の名を挙げてみたりすることもあるが、好きな山を問われるのはどうも苦手である。

 例外がある。神津島の天上山だ。海に浮かんでいて、向こう三軒両隣に山はない。お隣さんがいないのだから、ひがまれようがない。どの山に気兼ねすることなく天上山が「好き」といえる。

 2003年月、ガイド仲間の三島健悦氏から、この山を教えられた。もちろん山名くらいは知っていた。『関東百名山』(山と渓谷社)に取り上げられていたからだ。

 三島さんは言う。「いい山ですよ。島の山ですからね。竹芝桟橋から船で出かける。ロマンチックだと思いませんか。出航は夜の10時です。すぐには眠れませんからね。缶ビール片手に、夜のデッキで潮風に吹かれるひととき……」

 三島さんの話しっぷりに、たちまちその気になった。すべての段取りを三島さんにお願いし、デッキにもたれてホッと一息ついたのは、5月23日のことであった。時間調整なのか時々停船したり、大島、利島、新島、式根島と寄っていくし、なんといったってスピードが遅い。夜10時に出航して、神津島には翌朝10時に到着だ。ジェットフォイルだと3時間半くらいなのだが、波が荒いと欠航になるし、旅情がないじゃありませんか、とは三島氏の弁。

 船室でグズグズしているうちに朝がきた。神津島が近づいて、次第に大きくなる。スカイラインが天上山なのだろう。

たかだか571メートルなのに、海面から見上げているためか、けっこう高く見える。スカイラインはギザギザしていて手強そうだ。眺めているうちに神津島港に接岸した。観光課長(当時)の前田正代さんが出迎えてくださる。三島さんの仲良しなのだ。

 民宿で山登りの準備を整え、マイクロバスで黒島登山口まで送っていただく。

ジグザグに登ってジャスト1時間、スカイラインの上に立つ。黒島山頂10合目だ。その先はギザギザの稜線ではなく広い台地であった。

すぐ下に千代池があり、北東方向に進むと表砂漠がある。小さいが砂漠だ。東に進むと裏砂漠がある。5月中旬にはオレンジ色のオオシマツツジが満開となる。海もおだやかな日が多いので、三島さんは5月の天上山をすすめてくれたのだ。空気が澄んでいると、富士山が遠望できるという。

 評論家の井澤信久さんは、天上山のテンジョウとは「このうえない」こと、と紹介されている。天空の楽園、天上山。ぼくが新日本百名山に選んだ山である。

 台地上で2時間ほど遊び、三角点にタッチしてから白島登山口へと下った。車道をのんびり下って民宿に戻る。前田さんが待ち構えていて、マイクロバスで温泉保養センターへ連れていってくれた。すっぽんぽんでの入浴は不可だが、目の前に大きく海の広がる浜辺の露天風呂は最高だった。

 海がすっごくきれい。体力に自信のない人は、海と温泉を楽しむだけでも、神津島を訪れる甲斐があろうというものだ。
 新百チャレンジの本番は、05年5月28日。総勢25人、三角点で万歳三唱してもらった。06年5月にも登ってきた。4年連続天上山登山。それくらいの名山である。

                 【朝日新聞出版刊『ぼくの新日本百名山』より転載、09.3.4】