岩 崎 元 郎 の


 
   
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至仏山と老神温泉

 至仏山は燧ヶ岳と並ぶ、尾瀬の冠である。尾瀬ヶ原の西端に位置する標高2,228mの雄大な山。2億5千万年以上前にできた尾瀬最古の山、岩肌は蛇紋岩ということで、こいつが曲者だ。一般的な登路は北東面、尾瀬ヶ原の山ノ鼻から登るコースと鳩待峠から尾根上を忠実に辿るコースとがある。

 鳩待峠までは車でいく。ここで選択肢は二つ。一つ目は峠から直接山頂をめざす、もう一つは一旦山ノ鼻に下り、そこから山頂をめざす。峠から直接山頂に立った場合、下りは山ノ鼻にむかうのが普通だ。ここで蛇紋岩が問題になってくる。蛇紋岩は非常に滑り易い岩なのだ。山ノ鼻への下りで何人もの登山者が滑って転び、手首や足首を骨折している。ぼくだったら至仏山々頂から山ノ鼻へ下るようなことは、絶対にしない。山ノ鼻で一度、スピーカーから流れている面白いアナウンスを聴いた。事故を起こさないよう注意しろというもので、「捜索や救助のために地元の消防隊員が出動すると、夏山で日当3万円、冬山だと5万円請求されます」というもの。事故を起こすと高額の費用がかかることを納得した。百名山の一座を稼ぐべく至仏山に登ろうというのなら、鳩待峠から往復登山にするのが安心安全な登り方だ。周回登山とするなら、峠から山ノ鼻に下り、山ノ鼻から登って尾根コースを峠に下る方が、滑って転ぶ心配がない。

 至仏山は山スキーヤーに人気の山でもある。雪の季節は、鳩待峠まで車は上がらない。尾瀬戸倉スキー場の駐車場に車を置き、シールを効かせて雪に埋もれた車道を鳩待峠まで上がり、峠からは尾根通し山頂に立つ。シールをはずし、山ノ鼻に滑り込む。無名山塾も最盛期には多くのメンバーが、夏は沢登り、冬は山スキーに明け暮れていた。

 二十数年前の3月、電話のベルがなった。「すみません、事故です。至仏山からの滑降でYさんが転倒、足を骨折しました。山ノ鼻までは下ろしましたが、鳩待峠に引き上げるのは我々だけでは無理です。救援お願いします」。まだ携帯電話のなかった時代、J君が一人、尾瀬戸倉まで下ってきてぼくのところに電話をかけてきた。

 民間のヘリ会社に救援を依頼し、調布の飛行場から飛んでもらった。ヘリは山ノ鼻でYさんをピックアップし、調布飛行場まで運んでくれた。Yさんは待機していたタクシーに乗り込み、自宅近くの病院に入院。地元の消防隊の手を患わすことなく、あっという間に一件落着した。至仏山は滑り易い蛇紋岩が雪に埋もれていても、滑り易いのである。

 15年7月、大阪のIさんたちと至仏山に登った帰途、初めて老神温泉に立ち寄った。赤城山の神(ヘビ)と男体山の神(ムカデ)が闘ったとき、男体山の神に弓で射られた赤城山の神は、その矢を赤城山麓に突き刺すと、そこからお湯が沸き、そのお湯に傷を浸すとたちまち傷が癒え、男体山の神を追うことができたので「追い神」から老神になったと伝えられている。片品川に沿った斜面に十数軒のホテル・旅館が建ち並ぶ温泉街、尾瀬観光の拠点としても人気が高い。代表的な泉質は単純温泉で、乾燥性皮膚炎(アトピー)、慢性関節リウマチ、筋肉痛、創傷などに効能がある。

                                                       2017.5.15 記





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