岩 崎 元 郎 の


 
   
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源次郎岳と嵯峨塩鉱泉

 源次郎岳と聞かされただけで、どの山域のどんな山なのかピンとくる人は少ないと思う。山域は大菩薩エリア、大菩薩嶺の名声の大きさにすっぽり埋まって、源次郎岳は誰にも気づかれないようである。大菩薩嶺から南に延びる尾根は、大菩薩連嶺の主脈で、小金沢山、牛奥ノ雁ヶ原摺山、大蔵高丸、大谷ヶ丸とピークを連ね、ここで西に向きを変え、笹子峠へと伸びている。主脈とは別に嶺から南西に延びる尾根がある。主脈と南西尾根は日川を挟んで平行している。主脈は日川左岸尾根であり、南西尾根は日川右岸尾根になる。この右岸尾根が上日川峠、中日川峠、下日川峠と伸びて、その先に1476.6mの頭をもたげているのが源次郎岳だ。知る人の少ない源次郎岳、不遇の山と言ってもいい。

 随分以前のことになるが、ぼくの登山教室で源次郎岳を取り上げた。現在、無雪期には甲斐大和から上日川峠までバスの便があるから源次郎岳も身近になったが、当時はバスがなく、登山口の嵯峨塩鉱泉までタクシーで入った。ここから山頂へのコースがガイドマップに赤に実践が引かれている唯一の一般コースであった。

 当時のぼくはバリバリ、参加者も元気いっぱいだったから、計画は往復登山ではなく、恩若ノ峰を超え、塩山駅をめざした。源次郎岳から恩若ノ峰へと西に延びる尾根上のコース印は破線、山頂部には「迷」マークが印され、破線の上に「道形は認められるがヤブがうるさい。源次郎岳から恩若ノ峰まで道標はほとんど無く、判断力を要す」と印刷されていた。

 嵯峨塩鉱泉登山口から山頂に立ったぼくは、迷わず西にむかった。ぼくは登山インストラクターで、ガイドではない。ガイドは安心安全に山頂へと案内するのが仕事だがら、コースの下見が必要かもしれないが、登山インストラクターの仕事は安心安全に山と関わり合う方法を学んでもらうところにある。だから原則、下見をしない。

 登山の大いなる魅力は、未知との遭遇である。その先でコースが二分していたとする。右に行くか左に行くか、ぼくが下見をしていて答えが分かっていたら、その場の緊張感はゼロ。下見をしていなければ間違いなく未知との遭遇だ。全員緊張して、右か左を考える。方向、道の踏まれ具合、諸々の状況をインプットして右か左を判断する。やまでの考え方、判断の仕方を学んでもらうのがぼくの登山教室だ。

 尾根の背を拾って行けばいいので、踏み跡が不明瞭でもルートファインディングはさほど難しくはない。三メートルくらいのギャップが行く手を遮った。ロープを出すか出さないか。時間がかかるが、ここはロープで一人づつ確保して通過した。問題に遭遇して、そこで答えを出す、ということも学んでもらえたと思う。かくて塩山駅に下山して飲むビールは最高にうまくなる。

 この時以来源次郎岳には登っていないが、もう一度登ってみたいと思っている。次回登るときは、嵯峨塩館に一泊、のんびり往復登山をすることにしよう。上日川峠から歩いてもいいかな。嵯峨塩鉱泉もあちこちにある信玄公の隠し湯の一つ。温泉法の基準を満たさないとかで、温泉ではなくなった。それでも人気の高い宿。我々山ヤは、こんな山間に秘湯を持てていて幸せだ。

                                                      2018.3.15 記



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